合志マンガミュージアム特別展「橋本博コレクション貴重資料展 ~これが私の「マンガ遺産」~」
「橋本博コレクション貴重資料展 ~これが私の「マンガ遺産」~」趣旨
会期:令和4年1月29日(土)~6月29日(水)
*この特別展は、令和3年度 文化庁 メディア芸術アーカイブ推進支援事業「橋本博コレクション貴重資料のメディア芸術データベース登録へ向けての試行」(国立大学法人 熊本大学)の成果にもとづくものです。
- 「橋本博コレクション」とは
合志マンガミュージアム館長である私 橋本博は1948年生まれの団塊世代に属しており、私がこれまで数十年かけて集めてきたマンガコレクションは、団塊世代の個人史と戦後マンガ史のあゆみが重なっているので、戦後のマンガ史を語る上で貴重なものを数多く含んでいる。
今回はその「橋本コレクション」の中から、1940〜50年代のマンガ史の黎明期の頃の資料を中心にセレクトし、それを「マンガ遺産」として展示する。
- 「マンガ遺産」を選定する意義
①マンガは現代の日本文化を代表する「顔」であり、メディア芸術(マンガ・アニメ・ゲーム)におけるマザーコンテンツであるがその文化的、資料的、経済的評価は依然充分だとはいえない。
②その価値にいち早く気づいた海外の研究者やオークション関係者が日本のマンガ資料を入手し始めており、このままではかつての浮世絵のように海外流出のおそれがある。
③その価値を内外にアピールするために、資料の選別、価値づけをして一般にも分かりやすいように、試行的に私にとっての「マンガ遺産」として認定する。
④ここで認定した貴重資料は、将来的に文化庁の「メディア芸術データベース」にも登録されることで、内外の利用に供したい。
- 「マンガ遺産」認定の条件(各10ポイント) 認定者=橋本博
①重要性…学術的、文化的、歴史的観点から極めて重要度が高いと思われるもの。
②希少性…重要性が高いにもかかわらず残存率が極めて低い。
③経済性…その資料の存在が市場的価値を有する。
④緊急性…資料の廃棄、散逸、海外流出の危険性が高い。
※当該資料のコンディション10ポイントを加味して50点満点
- 「マンガ遺産」のランクと点数
P プラチナ 40〜50ポイント
G ゴールド 30〜39
S シルバー 20〜29
- 今回展示するP(プラチナ)資料の例
・市場的、資料的価値の最高峰貸本漫画
妖奇伝(水木しげる) 45ポイント(カバー欠)
・最も影響の大きかった雑誌のひとつ
少年少女冐険王(秋田書店) 40ポイント(イタミあり)
・雑誌付録のレガシー
ばらとゆびわ(藤子不二雄) 50ポイント
- 「マンガ遺産」展示品
①赤本漫画
②貸本漫画
③絵本
④紙芝居
⑤雑誌
⑥付録
- 赤本漫画
昭和20年代、書店を通さない非正規のルートを通して売られていた玉石混交のメディアで今でもその全体像は明らかになっていない。裏表紙に赤色を多用していたためこう呼ばれるようになった。紙質は悪く、サイズも不統一だが、値段が付いているものは露店、行商、貸本屋を通して販売されていた。サイズの小さい駄菓子屋のオマケは「玩具系赤本マンガ」と呼ばれている。
赤本漫画は戦前戦後の限られた期間しか発行されておらず残存数も少ないが、マンガ史を語る上で貴重な資料である。市場価値は現時点では高くないがここ数年以内に消滅してしまうおそれがあるので今のうちに「マンガ遺産」に認定しておきたい。
- 貸本漫画
全国で三万軒以上あったと言われる貸本屋は 学校の近く、商店街の路地裏、駅やバス停付近、風呂屋、床屋周辺などに広がり、そこで流通していたものが貸本漫画である。貸本屋なくして今日の日本のマンガの隆盛はなかったといえるだろう。
貸本漫画はさいとう・たかを、つげ義春、水木しげる、白土三平、藤子不二雄、赤塚不二夫、ちばてつやなど戦後マンガ史を築いた作家たちを育てた媒体であるにもかかわらず残存数はわずかなので市場的価値も極めて高い。「マンガ遺産」としては最も代表的な存在である。
- 絵本
戦前戦後の絵本は極めて画力の高い作家によって描かれており、これを読んでいた子どもたちの中にはその後マンガ家になった者も多い。その意味でこの頃の絵本はマンガの原型とも言える媒体であった。戦時色の強い作品も多く、残存数は限られている。マンガではないがマンガのルーツとも言えるものなので遺産に加えることで再評価されることを期待している。
- 紙芝居
厚紙の表に絵、裏にセリフが描かれたものを演者が読み上げるという日本独特の街頭メディアである。ここから白土三平、水木しげる、小島剛夕などのマンガ界のレジェンドが生み出されていく。複製物ではなく一枚絵なので残存数は極端に低い。「マンガ遺産」としては第一級の資料と言えよう。
- 雑誌
戦前から読者の年齢、性別、文化度の違いに合わせて多様な雑誌が発行されており、マンガはその雑誌の中では添え物的存在でしかなかったが、次第に中心的存在になっていく。ここでは子ども向けの学年誌、児童誌、大人向け雑誌、少年少女向け月刊誌をピックアップしてある。
発行当時は大量に出回っていたが紙質が悪いので雑誌の保存性は低い。単行本化されておらず雑誌でしか読めない作品も多く、学術的にも貴重なものを含むので、「マンガ遺産」としては優先的に認定されるべき存在である。
- 付録
1950〜60年代に多数発行された月刊誌には部数を伸ばすためにオマケとなる大量の付録マンガが付いていた。
本誌からの続きもあるが、多くは一冊で完結しているのでミニ単行本と言ってもいい媒体である。
単行本化されることも少なく、多くは読み捨てされていたので残存数は高くない。読み切り形式の付録本は特に人気が高く、「マンガ遺産」として認定されることに異論はないだろう。